本論文は、2024年9月に開かれた35回廃棄物資源循環学会で口頭発表した論文です。下記廃棄物資源循環学会研究発表会講演集にも掲載されています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmcwm/35/0/35_23/_article/-char/ja
Proceedings of the Annual Conference of Japan Society of Material Cycles and Waste Management (1)
Author Kentoku FUNAKI (1)
The state of polystyrene foam littering in river surface cleaning operations and its solutions*Kentoku FUNAKIProceedings of the Annual Conference of Japan Society of Material Cycles and Waste Management
2024 Volume 35 A1-3-O
Published: 2024
Released on J-STAGE: December 09, 2024
DOI https://doi.org/10.14912/jsmcwm.35.0_5
概要
河川浮遊ごみのほとんどは使い捨てプラスチックである。そして、その2割は発泡スチロールの箱やトレイ、カップヌードルのカップ類である。風に飛ばされやすく、細かくなって拾うのが大変である。特に危惧するのは、ビーズ法発泡スチロールと、風に飛びやすい発泡ポリスチレンシートの2種の発泡スチロールである。また、ボート置き場では、傷が付かないよう船艇を保護する防舷材フロート(浮き)にも使われ、船がぶつかれば、ポリスチレンの粒がポロポロ落ちる状態になっている。ポリスチレンの粒になっていたら、拾うのは不可能。そもそもマイクロプラスチック化して海洋汚染する発泡スチロールを海洋で使うべきではない。安いから使われており、タイ等の途上国では、大量に使い捨てされ、海洋に流出しやすい状態になっている。環境税を課し、得た税金で海洋生分解性プラスチック等の発泡スチロール代替材に補助金をかけて普及を促すことを提案する。
○(正)舟木賢徳1)
1)環境カウンセラー
1.はじめに
筆者は、今から20年前に、シニア海外ボランティアになってタイに赴任し、チェンマイとバンコクにそれぞれ2年
の間、彼の地のごみの収集と処理のアドバイザーに従事した実地の経験があるとともに、今から10年前には、海岸や
河川のごみの散乱状況を知るため、東京都が実施している船の上からたも網(作業員手作りの長さ3m弱の柄に直径
3mm弱の網目を持つ:写真1)で河川に浮遊しているごみを拾う河川水面清掃業務に1年半の間、勤務した経験を持
つ。この2つの経験から、発泡スチロールの散乱状況を紹介するとともに、その解決策を提示したい。
2.河川浮遊ごみの特徴
河川浮遊ごみのほとんどは使い捨て容器包装である 1)。大小のPETボトル、栄養ドリンクびん、スチール缶、アルミ缶、スプレー缶、使い捨てライター、レジ袋や透明袋、粘度のある飲み物を入れるバウチが流れてくる。苗木用の黒いプラスチックポットも相当数流れて来る(船上に拾い上げられたごみの数々:写真2)。小さい物では、タバコの吸い殻・フィルター、お菓子を一個一個詰めたプラスチック個包装、ペットボトルの蓋も、相当数流れてくる。かつてアルミ缶のプルトップが本体から離れて野外に散乱して問題となり、プルトップ式が廃止されたように、ペットボトルの蓋も本体から外れない方式を義務化すべきだ(タバコの吸い殻、フィルター、お菓子の個包装等は網目から漏れて拾い上げられない)。
反対に流れてこないものとしてビールびんが挙げられる。5円のデポジット制が行なわれているためであろう。
厄介なのは、発泡スチロールのトレイや皿、カップヌードルのカップ類である。風に飛ばされやすく、細かくなって拾うのが大変である。レジ袋や透明袋などは、流れて来る間に水よりも重くなって水中を漂うため、見付けて拾い上げるのは容易ではない。プラスチック弁当ケースが入ったレジ袋をそのまま捨てる不法投棄も多いのだ。
筆者が特に危惧するのは、ビーズ法発泡スチロール (EPS: expanded polystyrene)と、風に飛びやすい発泡ポリスチレンシート(PSP: polystyrene paper)の2種の発泡スチロールである。EPSは、ポリスチレンの粒に蒸気で加熱して膨らませ、膨らませた粒と粒が熱でくっついたものなので、使い続けると、ポロポロと落ちやすいし、生分解できないので、環境には甚だ良くない。隅田川で船の上からたも網でごみを拾っていると、時々、発泡スチロールの箱や細かくなったものが大量に流れてくることがある。誰かが、発泡スチロールを壊して川に流しているのではないか。
東京都中央区の浜離宮恩賜庭園は毎朝、ごみが多い時は朝・夕の1日2回、庭園を囲う水辺の河川清掃が行なわれ、隣りの築地市場から流れてきた発泡スチロールの箱が大量に浮かんでいた。恐らく、店の近くに置いていた空の箱が、風に飛ばされたものと思われる(なお、現在市場が豊洲に移転し、作業はビルの中で行われているため、発泡スチロールの海への流出が防がれてはいる。しかし、使っているうちに発泡スチロールの粒がはがれてマイクロプラスチックになることは必定。東京都には全面的に、発泡スチロールの使用を禁止するよう求めたい)。また、ボート置き場では、傷が付かないよう船艇を保護する防舷材フロート(浮き)の発泡スチロールがボロボロになっており、船がぶつかれば、ポリスチレンの粒がポロポロ落ちる状態になっている。ポリスチレンの粒になっていたら、拾うのは不可能。
そもそもマイクロプラスチック化して海洋汚染する発泡スチロールを海洋で使うべきではないし、発泡スチロールに替わる代替材はある。安いから使われており、環境税を課し、得た税金で海洋生分解性プラスチック等の発泡スチロール代替材に補助金をかけて普及を促してはどうか。

3.発泡スチロールの海洋や海岸での散乱状況
環境省による漂着ごみ
モニタリング調査の中でデータを入手できた2020年に行われた、千葉県布引海岸、同県中谷里海岸、大阪府泉南郡岬町淡輪付近の海岸の、幅が50mで、汀線から堤防までの間の、長さ2.5㎝以上のごみを回収した調査結果によると、個数が小さい海岸では、2割に行かないものの、調査個数が多い淡輪付近の海岸の発泡スチロールごみ総数は、56個(18.9%)、容積では3.074L(17.2%)であったという2)
(表1、%は、プラスチックの総数、総容積の中に占める割合)。

4.タイでは、発泡スチロールの皿、カップが花盛り2008年10月から2年間、タイのノンタブリ市にシニア海外ボランティアとして派遣されていたタイでは、中国資本が進出して、安い発泡スチロールの皿、カッ
プが普及していた。それまでは、市場で買い物をすると、バナナの皮等で包んでいたが、今ではバナナの皮は全く使われていない。イベントの後の地面は、プラスチック袋、発泡スチロールの皿等で覆われてしまうほどである。このような状態のため、町の中を流れる排水路の行く先であり、さらに川につながっている運河には大量の発泡スチロールが浮遊していた(下の写真3)。運河の流れ先であるチャオプラヤ川の砂浜漂着するごみを調べた結果では、発泡スチロールは重量で全ごみの約2割、個数で約9割を占めていた。3)


5.結び
いま我々は岐路に立たされている。いま行動を起こさなければ、今から50年後の世界では、ふわふわ空気中を漂
うナノプラスチックの中でマスクをして歩かなければならなくなる。プラスチックの粒が漂う中を泳がなければなら
なくなる4)。我々の後世の世代からどう申し開きをするのか。なぜこんな事態を防ぐことができなかったのかと。し
らす干しやちりめんじゃこ、天然塩等の商品中にもマイクロプラスチックが紛れ込んでくる事態はもうすぐそこまで
来ている。特に危惧するのは発泡スチロールである。ポロポロ、プラスチックの粒が散乱し、最もマイクロプラスチ
ック化しやすい製品である。まず発泡スチロールから海洋生分解性プラスチックへの転換を図るべきである。発泡ス
チロールの製造・販売・使用を禁止すれば、マイクロプラスチックを2割前後減らせることができるのではないかと
いうのが本稿の結論である。
参考文献
1)舟木賢徳:”河川水面清掃業務からみたプラスチックの動態.”月刊廃棄物2017年1月号、pp.38-39(2017)
2)環境省:千葉県、大阪府:海岸漂着ごみモニタリング調査業務の結果について(2020)
3)Kentoku Funaki、 Saito Takashi、 Masuo Hasumi: Draft Proposal of Solid Waste Management Plan in San
Kamphaeng Subdistrict Municipality、JICA(2007)
4) NHKテレビ:”2030未来への分岐点(3)プラスチックの脅威 大量消費社会の限界”(2021.3.20)
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