カトリック精神を広める⑲勧めたい本紹介 「ゲノムと聖書 科学者、<神>について考える」

 著者フランシス・コリンズ氏は、人間の30億からなるDNAを、10年以上に渡って解読を進めてきた国際ヒトゲノム計画のリーダーを務めた遺伝学者、医師である。この本は、科学者である彼が、いまだにダーウィンの進化論を信じない人の多い、アメリカのトランプ大統領も信仰する福音派に所属し、無神論者からいかにして神を信じるようになったか、宇宙論、遺伝学を手がかりにして、哲学も交えながら、福音派の信者にも納得の行く論法で科学と信仰を論じた書物である。

 本書の中核となる問いは、「宇宙論、進化論、そしてヒトゲノムの研究が進む現代において、科学的世界観と宗教的・霊的世界観の間に、十分満足のいく調和を見いだせるのだろうか?」著者は、声を大にして「見いだせる」と答えている。ガリレオ、ダーウィン、アインシュタインやホーキング博士も登場し、読めば、現代の宇宙論や遺伝学にも強くなることを請け合う。

 本書では、信仰を持ったばかりの頃に悩まされた4つの問いに答えている。4つの問いとは、「神という概念は、人間の願いの投影に過ぎないのではないか」「宗教の名の下になされた害悪はどうなのか」「神が愛に満ちているなら、なぜ世界に苦しみがあるのを許容するのか」「理性的な人間がどうやって奇跡を信じることができるのか」

 最後の問いは事後確率を計算するための計算式であるベイズの定理も交えて論じている。はっとうなずく驚くべき確率論なので、読むことを勧める。

 最後に、本書の中のエピソードを1つだけ紹介しよう。ボランティアになってナイジェリアで医師を務めた時の話である。

 一人の若い農夫が、足が膨れ上がり息も絶え絶えの状態で、家族に連れられ、病院にやってきた。診察してみると、結核の重症患者で、薬も道具もない中で、どうやって助けるか。心臓に大量の血液混じりの結核浸出液が貯まっている。胸に太い針を刺して、これを抜き取れば助かる。普通なら、心臓専門医が、超音波投影をしながら、太い針を刺す。一歩間違えれば、直ちに死に直面する危険な医療行為である。彼にそのことを告げた。彼は言った。「針吸引してください」と。フランシス氏は、心臓が飛び出しそうな緊張に震えながら、患者の肋骨を狙って太い針を刺した。直ちに血液が出てきたが、それは赤い血ではなく、血液まじりのドス黒い結核浸出液で、1リットル近く抜き取ったら、足の膨れはなくなり、息は正常に戻った。翌朝、患者の病室に行くと、元気になった若い農夫がいった。

「あなたはなぜこんな所に来てしまったのかと思っているでしょう。私にはその答えが分かります。あなたがここに来た理由はただ一つ、私のためだったのです」

 大勢のアフリカ人を癒やす偉大な白人医師になるという私の壮大な夢は、ただの思い上がりであったと悟らせるには十分であった。そして、彼の言葉を噛みしめながら、なんとも言葉にできない平安を覚えたという。異国の地で、私は神の御心を確かにつかんだ。我々の心の中に刻まれている善意への願望を通して、神の聖なる性質を見たと、フランシス氏は述べている。

横浜教区信徒 森川海守

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