ミッシングプラスチックについての考察と河川における自動ごみ取機設置の提案

本論文は、2024年9月に開かれた35回廃棄物資源循環学会で口頭発表した論文です。下記廃棄物資源循環学会研究発表会講演集にも掲載されています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmcwm/35/0/35_23/_article/-char/ja

海洋プラスチックについては、2015年に発表されたJambeckらの、海洋に累積滞留しているとされるプラスチックの約1億5千万tの推計値は過大である。またこの推計値に基づくミッシングプラスチックのほとんどが深海に滞留しているとされる推計値も過大である。河川水面清掃業務に従事した経験から、ミッシングプラスチックのほとんどは、深海ではなく、河川敷、海岸に滞留している。そして、河川敷、海岸こそが、マイクロプラスチックの発生場所である。ここでは、絶えず、日光の紫外線を受けるとともに、潮の干満等により、水に濡れたり、乾いたりを繰り返すことで、マイクロプラスチック化していく。すなわち、マイクロプラスチックが誕生する場所は、河川敷・海岸である。その発生を防止する方法は、使い捨てプラスチックの発生抑制と、海岸・河川敷に滞留しているプラスチックの除去、及び、各河川に自動ごみ取機を設置して、河川を通じて海洋に流出するプラスチックを防止することが必要である。

○(正)舟木賢徳1)

1)環境カウンセラー

1.はじめに

ミッシングプラスチックについては、2つの側面が指摘されている1)。一つは、「海洋プラスチックの流入量と観測量の不一致『消えたプラスチックの謎(ミッシングプラスチック)』」と、もう一つは、海洋の表層で採集されたマイクロプラスチック(直径が5mm以下のプラスチック)の分布サイズ(大きさ別の個数)が、サイズが小さくなるほど急激に増え、ある所で最大を迎えた後、急激に数が減少する『小さな破片の消失問題』の二つである。本稿では、前者を対象とする。マイクロプラスチックの海での散乱問題の解決が急務であるが、筆者は、今から20年前に、シニア海外ボランティアになってタイに赴任し、チェンマイとバンコクにそれぞれ2年間、彼の地のごみの収集と処理のアドバイザーに従事した実地の経験があるとともに、10年前には、海と河川のごみの散乱状況を知るため、東京都が実施している船の上からたも網で河川に浮遊しているごみを拾う河川水面清掃業務に1年半の間、勤務した経験を持ち、この問題の解決に一番ふさわしいと考え、本論考を展開する2)

まず海洋プラスチックについては、今から10年前の2015年に発表されたJambeckらの研究が基本文献である。3)。それによると,1950年に生産を開始したプラスチックは,2010年までに累積83億tに達っし,その内の480万t~1270万t(1.7~4.6%)が海に流入しているとしている。少なく見積もって1.7%とすれば,プラスチックが生産を開始して以来累積,約1億5千万tが海に滞留していることになる(表1)。現在,その9割以上の所在が不明(ミッシングプラスチック)とされる。この中で、海に流出したプラスチックごみ量を推計する方法として、海岸から50km圏内の人口に都市部の一人当たりのごみ量を乗じて算出している。このごみ量については、世銀のデータ4)に基づいているが、まずこれが過大であると指摘したい。例えば,日本の2010年実績では,976g/人日に対し,Jambeckらは,1.71㎏/人日を採用している。ほぼ2倍の数値である。タイのチェンマイでも、筆者らが,1年間の内,暑期,乾期,雨期の3期,各回5日間,調査重量各回2tのごみの組成調査を1週間調査した結果では,1人当たり重量は466gであった5)。タイの公式統計でも,2010年650g/人日である5)。しかし,Jambeckらは,1.25kg/人日を採用している。一人一日当たりのごみ量については,日本とタイの2ヶ国の事例だけでは不十分であり、彼らが推計した192ヶ国について個別具体的に精査すべきと考える。

2.マイクロプラスチックが誕生する場所は、海岸と河川敷である

河川清掃業務に従事した経験から,河川浮遊ごみに比べて,なかんずく、既に河川を流れている間に水中・海中を漂い、深海にまで沈降していくプラスチックに比べ、海岸や河川敷に散乱するごみ量は圧倒的に多く、沿岸部に滞留するごみ量の推定値として,先の藤倉氏らの「沿岸漂着など」の3000万t(量は筆者と同じだが)、40%の割合は余りに低いと考える(表1)。これらが、強烈な紫外線と、潮の満ち引きや、船の就航等による濡れたり、乾いたりの繰り返しで劣化し、マイクロプラスチックとなっていくと申し上げたい。

東京湾を例にして2010年の全体の河川(浮遊)ごみ量を推計する(表2)。この場合,河川水面清掃業務は1日の4分の1の6時間程度での回収量であり,しかも日曜日は休みであるから,それらを考慮すると,実際の1年間の東京湾に流入する河川(浮遊)ごみ量は,東京都の2010年のごみ総排出量4,536万tの多くて0.2%程度(0.141~0.189%)ではないか。表2の拾得率は、実際に作業した経験から流れてきたごみの80%以上は拾いつくしていると考えるが、ここでは60~80%の3通りにした。この0.2%は、分別収集している先進国の海洋流入率の一つと考えるが、先のJambeckらは、2010年におけるプラスチックごみ量のうちの1.7~4.6%が海洋に流出していると推計している3)。タイの地方都市の住民217人にアンケート調査した結果では、ごみを野外に投棄していると回答した割合は、2.8%であった。本稿では、海洋流入率は、多く見積もっても、1~3%程度(真ん中を取って2%)ではないかと指摘したい。このため、「外洋に漂っているはずのプラスチック」量は,3750万tの2%の75万tと推計する。プラスチックの98%、3675万tは,沿岸に漂着していると指摘したい。海表面のプラスチックが約44万t(20万3000+23万6000t)と推計されていることから,ミッシングプラスチック量は「海洋を漂っているはずのプラスチック」75万tの42%,31万tである(表1)。ミッシングプラスチックの藤倉氏らの推計値「海洋を漂っているはずのプラスチック」4500万tの59%、4456万tは過大であると指摘したい。

3.すべての河川に自動ごみ取り機の設置を提案する

 河川浮遊ごみは,船の通行による波で,徐々に川の真ん中から押し寄せられて,岸壁に沿って流れて来るため,引き込み口を作って誘導し,そこに自動でごみを拾い上げてごみ箱に流し入れる自動ごみ取り機を設置すれば,清掃船が作業しない夜でもごみを拾い上げてくれる。このため,自動ごみ取り機をすべての川に設置して,自国で発生したごみが他国の海岸に流れて行かないようにすれば,日本で発生したごみがハワイ島などの太平洋の島々やアメリカの海岸に,中国や韓国で発生したごみが日本海沿岸に流れ着かなくなるだろう。

上記自動ごみ取り機については,実は,日本の川岸にも自動ごみ取り機が設置されているのが分かった。洪水時等で,増水した川の水を排水するときにごみも流れてくるため,排水機場に自動ごみ取り機が設置されている。しかし運用されているのは年に数回であることが国土交通省の事務所に聞き取りして分かった。清掃船でごみを回収するときに一番ごみが貯まっているのが排水機場の所で,自動ごみ取り機はいつ動かすのかと疑問に思っていたのだ。これでは宝の持ち腐れである。国交省はすべての川の自動ごみ取り機を毎日運転するよう運用を改めて欲しい。

本稿では、ミッシングプラスチックの大部分、98%が河川や海岸の散乱ごみであること、そうして、この解決には、ほぼ拾うことが不可能な深海にあるプラスチックよりも、海洋プラスチック、マイクロプラスチックを日々生み出している河川・海岸のごみの拾得が急務であることを示した。この解決には、ごみのポイ捨てを抑制するのに一番効果があると言われる、ごみ拾いの体験を国民に義務付けるとともに、各河川に自動ごみ取機を設置するよう提案する。設置している河川では、毎日稼働させ、河川を通して海洋に流れ込む海洋プラスチックの、海への流出を防止するよう国土交通省に提案する。海に漂うプラスチックは,海で拾うよりも、海に流れ出る前に、川で捕捉する方が効率も効果も高い。ごみが川から海に流出しないようにするのは沿岸国の責任でもある。

参考文献

1)JAMSTEC「The missing Plasticsの解明に向けた取り組み」2019年5月29日

2)舟木賢徳:”河川水面清掃業務からみたプラスチックの動態.”月刊廃棄物2017年1月号,pp.38-39(2017)

3)Jenna R.Jambeck, Roland Geyer, Chris Wilcox, Theodore R. Siegler, Miriam Perryman, Anthony Andrady, Ramani Narayan, Kara Lavender Law: Plastic waste inputs from land into the ocean, Science Research report

4)The Word Bank “What a waste – a global review of solid waste management” March 2012, No.15 p11

5)Kentoku Funaki, Saito Takashi, Masuo Hasumi: Draft Proposal of Solid Waste Management Plan in San Kamphaeng Subdistrict Municipality, JICA(2007)

6)Pollution control department,” Thailand State of Pollution Report 2010”


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